【東洋医学用語】遺尿

遺尿

尿失禁のこと。
3歳以上の小児の寝小便癖のこと。


小便自出而不禁者,謂之遺尿;
睡中自出者,謂之尿床。
此皆腎與膀胱虛寒也。
(清·陳復正《幼幼集成·小便不利證治》)

訳:
小便が自然に出て止まらないものを遺尿といい、
寝ている間に自然に出るものを尿床という。
これらはすべて腎と膀胱の虚寒によるものである。
(清・陳復正『幼幼集成・小便不利證治』)


遺尿者,此由膀胱虛冷,
不能約於水故也。
(隋·巢元方《諸病源候論· 遺尿候》)

訳:
遺尿とは、膀胱の虚冷により、
水を制御できないためである。
(隋・巣元方『諸病源候論・遺尿候』)


小便不禁者,腎氣虛,下焦受冷也。
腎主水,其氣下通於陰,
腎虛下焦冷,不能溫制其水液,
故小便不禁也。
(隋·巢元方《諸病源候論·小便不禁候》)

訳:
小便が止まらないのは、
腎気虚で下焦が冷えているためである。
腎は水を主りその気は下って陰に通じる。
腎虚で下焦が冷えると、
その水液を温めて制御することができないため、
小便が止まらないのである。
(隋・巣元方『諸病源候論・小便不禁候』)


下焦蓄血,與虛勞內損,
則便尿自遺而不知。
(宋·楊士贏《仁齋直指方》)

訳:
下焦に蓄血があり、虚労による内損があると、
小便が自然に出て、それに気づかない。
(宋・楊士贏『仁齋直指方』)


遺尿者,溺出不自知也;
閉癃者,溺閉不通而淋瀝滴點也。
唯肝與督脈、三焦、膀胱主之。
(明·王肯堂《證治准繩·閉癃遺》)

訳:
遺尿とは、尿が出て自覚がないことである。
閉癃とは、尿が閉塞して通じず、
滴り落ちることである。
これらは肝と督脈、三焦、膀胱が主る。
(明・王肯堂『證治准繩・閉癃遺』)


小便遺失,責在肺,而不在腎。
蓋肺者腎之上源,又其母也。
上源治則下流約矣。
(明·李中梓《病機沙篆·赤白濁》)

訳:
小便の失禁は
肺に責任があり、腎にはない。
なぜなら肺は腎の上源であり、
またその母であるからだ。
上源が治まれば、下流も制御される。
(明・李中梓『病機沙篆・赤白濁』)


便遺。心虛則少氣遺尿。
肝實則癃閉,虛則遺尿。
脬遺熱於膀胱則遺尿。
膀胱不約則遺,不藏則水泉不禁。
脬損,則小便滴瀝不禁。
(明·李時珍《本草綱目・三卷·溲數遺》)

訳:
便遺。心虚であれば少気遺尿となる。
肝実であれば閉癃となり、虚であれば遺尿となる。
膀胱に熱がこもると遺尿となる。
膀胱が制御できないと遺尿となり、
貯蔵できないと水泉が止まらない。
膀胱が損傷すると、
小便が滴り落ちて止まらない。
(明・李時珍『本草綱目・三巻・溲数遺』)


人之漩溺,賴心腎二氣之所傳送,
蓋心與小腸為表裡,腎與膀胱為表裡,
若心腎氣虧,傳送失度,故有此症。
(明·龔廷賢《萬病回春·遺溺》)

訳:
人の排尿は、心腎二気の伝送に頼っている。
心と小腸は表裏であり、腎と膀胱は表裏である。
もし心腎の気が不足し、
伝送が失調すると、この症状が現れる。
(明・龔廷賢『萬病回春・遺溺』)


小便不禁或頻數,古方多以為寒,
而用溫澀之藥。
殊不知有屬熱者,蓋膀胱火邪妄動,
水不得寧,故不能禁而頻數來也。
(明·王綸《明醫雜著·卷三·小便不禁》)

訳:
小便が止まらない、あるいは頻繁に出る場合、
古方では多くを寒とみなし、温渋の薬を用いた。
しかし、熱によるものもあることを知るべきである。
膀胱の火邪が妄動し、水が安定しないため、
止まらず頻繁に出るのである。
(明・王綸『明医雑著・巻三・小便不禁』)


膀胱不利為癃,不約為遺溺。
若腎虛則膀胱之氣不約,
故小便出而不自知也。
(清·葉天士《醫效秘傳·傷寒諸證論·遺》)

訳:
膀胱が不利であれば癃となり、
制御できなければ遺溺となる。
もし腎虚であれば膀胱の気が制御できないため、
小便が出て自覚がないのである。
(清・葉天士『医効秘伝・傷寒諸證論・遺』)


人睡中尿出者,是其素稟陰氣偏盛,
陽氣偏虛,膀胱與腎氣冷,
而夜臥陽氣衰伏不能制陰,
陰氣獨盛則小便多而或不禁。
(清·陳念祖《醫學金針·卷七·遺》)

訳:
人が寝ている間に尿が出るのは、
その素質として陰気が偏盛し、
陽気が偏虚しているためである。
膀胱と腎気が冷え、夜臥すると
陽気が衰え伏して陰を制御できず、
陰気が独盛すると小便が多くなり、
あるいは止まらなくなる。
(清・陳念祖『医学金針・巻七・遺』)


火性急速,逼迫而遺。
(清·程國彭《醫學心悟·遺》)

訳:
火の性質は急速で逼迫して遺尿となる。
(清・程国彭『医学心悟・遺』)


肺虛則不能為氣化之主,故不禁也。
(清·沈金鰲《雜病源流燭·尿色》)

訳:
肺虚であれば
気化の主となることができないため、
止まらないのである。
(清・沈金鰲『雑病源流燭・尿色』)


小便不禁,雖膀胱見症,
實肝與督脈三焦主病也。
(清·林佩琴《類證治裁·閉癃遺》)

訳:
小便が止まらないのは膀胱の症状ではあるが、
実際には肝と督脈、三焦が主病である。
(清・林佩琴『類證治裁・閉癃遺』)


產者不順,致傷膀胱,
或收生不慎,損破尿脬,
皆能致小水失禁也。
(清·林珮琴《類證治裁·閉癃遺》)

訳:
出産が順調でなく、膀胱を損傷したり、
助産が不注意で、尿胞を損傷したりすると、
いずれも小便失禁を引き起こす可能性がある。
(清・林珮琴『類證治裁・閉癃遺』)


小兒夢中遺尿,為腎氣不充;
老人小便失禁,為腎陽衰弱;
溫病神昏遺尿及淋病小便頻數難禁,
均屬熱邪。至於中風便自遺,則宜辨證處理。
(清·顧靖遠《顧松園醫鏡·症方發明·數集》)

訳:
小児の夢中遺尿は、腎気不充のため。
老人の小便失禁は、腎陽衰弱のため。
温病の神昏遺尿および淋病の小便頻数難禁は、
いずれも熱邪に属する。
中風による便自遺については、弁証処理すべきである。
(清・顧靖遠『顧松園医鏡・症方発明・数集』)


凡治小便不禁者,古方多用固澀,此固宜然。
然固澀之劑,不過固其門戶,
此亦治標之意,而非塞源之道也。
蓋小水雖繫於腎,而腎上連肺,若肺氣
無權,則腎水終不能攝。
故治水者,必須治氣。治腎者,必須治肺。
宜以參、芪、歸、術、桂、附、
乾姜之屬為主;然
後相機加以固澀之劑為之佐,庶得治
本之道,而源流如度。
(明·張介賓《景岳全書》)

訳:
小便が止まらない者を治療する場合、
古方では多く固渋を用いたが
これは確かに適切である。
しかし、固渋の薬は、
その門戸を固めるに過ぎず、
これは対症療法であり根本を塞ぐ道ではない。
小便は腎に繋がるが、
腎は肺と繋がっており、
もし肺気が権限を持たなければ、
腎水は結局制御できない。
ゆえに水を治す者は、
必ず気を治さなければならない。
腎を治す者は
必ず肺を治さなければならない。
参、芪、帰、術、桂、附、乾姜の類を主とし、
その後、状況に応じて
固渋の薬を補助として加えることで、
根本を治す道を得て、源流が適切になる。
(明・張介賓『景岳全書』)


上虛補氣,下虛脫。
(明·王肯堂《證治準繩·小便不禁》)

訳:
上虚は補気、下虚は脱。
(明・王肯堂『證治準繩・小便不禁』)


因先病淋,服利藥太多,
致溺不禁者,參芪大補為主,少佐熟附子。
(明・張三錫《醫學六要·遺尿》)

訳:
以前に淋病を患い、
利尿薬を多用したために尿が止まらなくなった者は、
参芪大補を主とし、熟附子を少量加える。
(明・張三錫『医学六要・遺尿』)


小便不禁,當固腎以益氣,然後補中可也。
(明·方隅《醫林繩墨·卷六・小便不禁》)

訳:
小便が止まらない場合は、
腎を固めて益気し、その後補中すればよい。
(明・方隅『医林繩墨・巻六・小便不禁』)


遺尿者屬氣虛,多以參芪補之。
(明·汪機《醫學原理·卷之三·治中風大法》)

訳:
遺尿は気虚に属し、多くは参芪で補う。
(明・汪機『医学原理・巻之三・治中風大法』)


上焦虛者,宜補肺氣;下焦虛者,
宜固膀胱;挾寒者,壯命門陽氣,
兼以固澀之劑;挾熱者,補腎膀陰血,
佐以瀉火之品。
(清·李用粹《證治匯補·還溺》)

訳:
上焦虚の者は、肺気を補うべきである。
下焦虚の者は、膀胱を固めるべきである。
寒を伴う者は、命門の陽気を壮健にし、
固渋の薬を併用する。
熱を伴う者は、腎陰血を補い、
瀉火の品を補助とする。
(清・李用粹『證治匯補・還溺』)


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